仕事柄 様々な企業に取材という形で出向くことがあります。その中で必ず出るのが若者の退職問題です。 入社したものの長く続かず数ヶ月やめたり中には3日でやめる人もいるようです。この問題は会社がブラックだとか、若者たちが我慢できなくなったとか、親の教育が悪いとか、あるいは子どもがスマホやネットに溺れた悪影響だとか色々考えました。
ところがそういった問題ではないような気がしています。そもそも人間のつながりというものは人と人との信頼関係によってつながっています。これは家庭であっても友達であってもそれが会社であっても同じだと思います。この人なら信用できるとか、この人の言うことならついて行ってみようとか、あるいは一緒に苦労を共にできそうだとかそういった共感的なつながりです。
人と人は合う合わないというのが複雑に絡み合っていますが長く付き合える人も存在しています。それは感性や価値観がある程度歯車があってるというか 細かな噛み合いがうまくいっていると言い換えられます。
会社では会社のミッションや利益を上げなければいけないという課題に対して多くの歯車が存在しています。100人 社員がいれば100人の歯車を合わせていくという非常に困難な仕組みかと思います。昔はその歯車が荒かったのです。多少デコボコしていてもお互いが 余白があって調整できた時代です。これに対して現代は 競争が激しくその歯車の精度も非常に精細である必要があり、かつ高速である必要があります。そのような流れに若者(大人も)はついていけないのかもしれません。
会社にとっては人を纏めるために、ミッションステートメントとか理念とか、クレドとか、パーパスバリューとか時代とともに 様々な言い方に置き換えられてきました。それはそれで大切なことですが、どこか 薄っぺらい印象を受けるのは私だけではないのかもしれません。言葉というものは魂がこもってないと言葉にはなりません。
何が言いたいかというと人と人とのつながりを考えた場合に一人一人の尊厳を確かめ合ったり、信頼関係がないとどのような立場でも簡単に関係が崩れてしまうということです。若い人が会社を辞めるという理由はその信頼関係が築けないためです。
若い人が価値を判断する時に一つはインターネットの評判ということがあります。その次に給与や余暇などの現実的な指標、その次に会社の社会貢献や将来性ということを見るのではないでしょうか。その大切な指標として社長のパーソナリティかもしれません。その思想が社員に浸透していることは多いです。
私も小さい頃働いてみたいという会社がありました。それは本田技研工業です。当時小学校5年生だった時に機械の設計が好きで自分でいろんなアイディアを考えていました。ひとつはエンジンのバルブに対する新しい機構です。どうすれば高速な回転で燃焼効率を上げ ロスを減らすかということを考えていました。拙い手書きの図面を書いて本田技研工業に郵便で送った記憶があります。
数週間後に本田技研から返事の手紙が来ました。内容は「このアイデアは斬新ではありますが 公開特許ではありませんので 正式に会社では受理することができません。」そのような法務的な解釈を小学生の私に 丁寧に返事をしていただきました。あーこの会社は技術に対して真摯に向き合ってるのだなあ、と小さいながらに感動したものです。その会社で本田宗一郎さんという方が様々なチャレンジをして 、そういった挑戦が楽しそうだと思ったからです。あるいは「この人なら」楽しい挑戦をさせてくれるかと思って手紙を書いたのだと思います。
これは社長の考えに対する共感や思いですが、実は仕事上の取引でもこの人となら楽しい仕事ができるというのは感じることがあるのではないでしょうか。それは利害関係ではないけれども諦めたりせずに 粘り強く一緒に成果を出していけるというマンツーマンの信頼関係や出会いです。私もお客さんは選んではいけないのですが、この人なら多分大丈夫だろうという関係の人はいます。
今の若い人たちとの信頼関係が築けないのは、こういった1本の線を大切にするかしないかにもあると思います。これは大人にも悪い点があるかもしれません 。それは会社のミッションを優先するばかりに、一つのものさしで人を判断せざるを得ない、厳しい環境に起因してるとも言えます。
人は学歴や性別も関係なくあるいは技術でもなく、もっと言うならば 教える教えられないという関係でもないと思います。そこには互いの信用関係を保ちつつ 仕事に対してまっすぐに取り組む姿勢にあります。人と能力を比べればきりがありません。自分が誰と一緒に苦労を共にできるか?そういったことが大事なのだと思いますし、やりがいに繋がるのではないかと思います。
昔私が新卒で入った不動産建設会社の上司で面白い人がいました。「今日できることは明日にする。明日できることも明日にするわ〜」と笑って 夕方 早めに帰って行く人です。見た目は不真面目で ヘラヘラしていますが、とても人望があり会社の貢献度も大きかったです。そんな上司を見て心が救われた思い出があります。 そんな人がいたから勤められたのかもしれません。
人の繋がりは不思議なものです。若い人がどこに勤めるかという最初の入り口の時にその会社の代表者や上司と話してみるのが一番良いかと思います。面接といった堅苦しいものでもなく、「こんにちは ちょっと10分間 お話しさせてください。」そんな突撃訪問で良いのかもしれません。そんなトライ&エラーを多く重ね歯車が合いそうな会社で挑戦してみるのも良いかと思います。